胃から酸っぱいものが口のほうに上がってくる、胸やけがする、喉がヒリヒリして嫌な感じが続く──。こんな症状が気になるのなら、それは「胃食道逆流症」(非びらん性胃食道逆流症・逆流性食道炎)のせいかもしれません。
食べ物を飲み込むと、食道を通って胃の中に入ります。食道と胃の繋ぎ目の部分には、バルブの役割を果たす筋肉があり、食べ物が通過するとき以外はそれが閉じていて、本来なら胃に収まった物が食道に戻ることはありません。しかし、この仕組みがうまく働かずバルブがゆるんでしまうと、胃の内容物(胃酸や食べた物)が逆流してしまいます。胃酸は強い酸性の液体ですから、胃酸の逆流に伴い、食道や喉元が焼けるような嫌な感じがします。それが胃食道逆流症(非びらん性胃食道逆流症・逆流性食道炎)、'食道の不快な症状'の正体です。
胃食道逆流症(非びらん性胃食道逆流症・逆流性食道炎)は、少し前まで「欧米に多く日本には少ない」と言われていました。ところが最近の調査で、日本でも欧米並に増えていることがわかりました。人口の約1割が該当するとも言われます。増加の背景には、日本人の「胃酸が増加」し「腹圧が上昇」していることが挙げられます。
胃の中に胃酸が多く溜まっていると当然、姿勢の変化(例えば食後に横になる)などに反応して、胃酸が胃から食道へと流れやすくなります。そして、胃酸が増える原因の一つが、ピロリ菌※感染率の低下です。
ピロリ菌は胃潰瘍や胃がんの原因として知られていますが、胃酸の分泌も減らします。日本人のピロリ菌感染率は衛生環境の向上とともに徐々に低下していて、それとともに胃酸の分泌は徐々に増加してきています。 また、からだが大きい人ほど胃酸の分泌も多くなります。このことも、日本人の胃酸分泌が増えてきた理由の一つです。
※ピロリ菌:胃の中に住み着いていることがある細菌。井戸水などから感染すると考えられていて、上水道の整備とともに、ピロリ菌感染率は低下しています。
一方、胃酸の量は多くなくても胃酸が逆流しやすくなることがあります。それは、おなかの内部の圧力「腹圧」が高い場合です。腹圧が高いと、胃の内容物が周囲から押し上げられるかたちで逆流が起ります。肥満だと当然、腹圧は高くなりますし、また、骨粗しょう症のために腰や背中が曲がっていると、やはり腹圧が高くなります。
このほかにも原因が、いくつかあります。
◆食べ過ぎ...胃酸の分泌量を増やします。
◆早食い...食事と一緒に空気を飲み込みやすく、胃がふくれます。また、食べ物が胃に長くとどまります。これらのため、逆流が起りやすくなります。
◆脂肪分の多い食事...胃での消化に時間がかかりますし、脂肪分の消化のために分泌される消化液が、食道と胃の間のバルブをゆるめることがあります。
◆食後に横になる...物理的な理由です。
◆食道裂孔ヘルニアの影響...食道は横隔膜を通って胃に到達しているのですが(下図左)、胃の上部が横隔膜より上に入り込んでいることがあり(下図右)、これを「食道裂孔ヘルニア」といいます。このこと自体はとくに問題ないものの、胃食道逆流症(非びらん性胃食道逆流症・逆流性食道炎)の頻度が高くなります。
◆ほかの病気の薬の影響...高血圧などの薬の影響で、食道の筋肉のぜん動運動が抑制されて、胃食道逆流症(非びらん性胃食道逆流症・逆流性食道炎)になることもあります。
続きは『食道の不快な症状(非びらん性胃食道逆流症・逆流性食道炎)』の発行:一般社団法人 日本臨床内科医会