職場の検診などを受けたときに偶然、尿にタンパクがみつかることがあります。しかし、それを知らされたとき「ああやっぱり。それで体調が悪かったんだ」と納得する人はあまりいません。大多数は「別 になんともない」と思うでしょうし、必要な詳しい検査を受けずに放置してしまう人もいるくらいです。
でも、タンパク尿の原因である腎臓の病気は、症状に現れずに進行し、症状に気づいたときはもう透析が必要になる一歩手前、ということもあります。一方で、タンパク尿が出ていても病気でない場合もあります※1。タンパク尿を指摘されたら、ぜひこのパンフレットを参考にして理解を深めてください。
※1 長時間の起立や運動したあと、または熱が出たときだけにタンパク尿が現れる場合は、腎臓の病気はあまり心配いりません。
腎臓の最も重要な役割は、からだの中の水分(体内の"原始の海"※2ともいわれます)の量と濃度を調節して、からだの細胞を働きやすくすることです。
※2 原始の海とは体内の水分のことです。大昔、海で生まれた生物が陸上で生活するようになったとき、からだの水分を適切に保つ仕組みが不可欠になりました。
腎臓は血液中の不要なものをろ過して尿を作ります。腎臓の働きが低下してくると、血液中に不要なものが溜まったり、逆に必要なものが尿に混ざって出ていってしまいます。
腎臓は血圧を調節するホルモンも分泌しています。血液をいつもきれいな状態にしておくには、つねに一定量以上の血液が、血液の浄化器官である腎臓を通過していなければなりません。そのため腎臓の血流量が少なくなると、腎臓自身が血圧を上げるホルモンを分泌して、血流量を増やします。
このほかにも腎臓には、赤血球を作るホルモンを分泌したり、骨の強度を保つビタミンDを活性化する働きがあります。
タンパクはからだにとって大切な構成成分ですから、健康であればほとんど尿に混ざりません。しかし腎臓に病気が起きると、ろ過機能をもつ糸球体 をタンパクが通過して尿に出るようになります。
本来は糸球体を通過しないはずのタンパク成分が通過してしまう状態は、糸球体そのものにとっても負担になります。そのため、病気によって尿にタンパクが出ること自体が、病気の進行を早めます。
腎臓に病気があると腎臓内部の血管が細くなったりして、腎臓の血流量が減ります。また糸球体も目づまりの状態になります。すると腎臓は、血流量を保つために血圧を上げるホルモンを分泌して血圧を上げ、ろ過量を増やして尿量を保とうとします。
この仕組みは一見理にかなっているように思われますが、血圧が高いと糸球体内部の細い血管が傷めつけられ、結果的に腎臓の機能はより早く低下してしまいます。そして腎臓の機能低下がさらに血圧を上昇させるという悪循環が起こり、病気が進行します。
このように、タンパク尿と高血圧は腎臓の病気で引き起こされるものですが、同時に病気を進める原因にもなります。どちらも自覚症状がほとんどないために、治療の必要性を理解しにくいものですが、それらをきちんと管理することは、病気の進行を抑えるうえで、とても重要なことなのです。
むくみは腎臓の病気の症状のひとつです。でも、むくみが現れるのは病気がだいぶ進行してからのことです。そのころには、ひどい貧血に悩まされるなどの生活上不愉快なことが、いろいろと重なって起きてきます。とにかく、だるく、眠くなります。尿毒症(尿として排泄されるべき不純物が血液中に溜まりすぎた状態)を防ぐため、透析療法も視野に入ってきます。
□尿の泡立ちがなかなか消えない
□朝起きたとき、足や顔のむくんでいる感じがする
□無理をしていないのになんとなくだるい
□夜中2回以上トイレに立つ
□めまいや立ちくらみが多くなった
□動悸・息切れがする
□のどが渇く
□食欲がない
□血圧が高くなってきた
□頭痛を感じることが増えた
□顔色の悪さが気になる
糖尿病の治療が不十分な状態が続いていると、血管が傷みやすくなります。それによって血液をろ過する腎臓の働きが低下してくる病気です。患者数の増加が著しく、透析療法が必要になる原因の第一位にあげられています。
血液をろ過し尿を作る機能を担っている糸球体に炎症が起き、その働きが徐々に低下する慢性の病気です。発病の原因として、免疫の異常が関係しているといわれていますが、詳しくはまだよくわかっていません。比較的若い人にも多く起こります。病気の進行スピードは、患者さんによってまちまちです。
おもに高血圧による動脈硬化の影響が腎臓に現れるもので、高齢者に多い病気です。病気の進行は比較的ゆっくりしています。
多量のタンパクが尿中に排泄されてしまう状態です。このため血液中のタンパクが少なくなりすぎます。(病気の原因からみた病名ではなく、状態を表す用語です。)むくみや脂質異常症(高脂血症)を伴います。糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎でも起こります。
続きは『タンパク尿の意味と対策』の発行:一般社団法人 日本臨床内科医会