このほど日臨内インフルエンザ研究に参加した先生方を中心にお集まりいただき、第14回インフルエンザ夏季セミナーを平成28年7月17日(日)ベルサール八重洲(貸し会議室)にて開催しました。このセミナーで日臨内インフルエンザ研究2015-16年シーズンの最新の研究成果が発表され、特別講演2題が併せて講演されました。以下に各講演要旨を記載いたします。
(日臨内インフルエンザ研究班特任理事 岩城紀男)
2015-2016年シーズンのウイルス分離および血清抗体価の成績
インフルエンザ研究班リサーチディレクター(福岡) 池松秀之
2015-16年流行期にも、この研究に多くのウイルス分離検体と血清が多施設から収集された。ウイルスが分離された症例数は457例で、型・亜型の内訳は、H1N1pdm09が219例、H3N2が20例、Bが218例であった。
迅速診断キット陽性と判定された症例での陽性試験予測率は、A型で91.7 %、B型とで91.1 %であり、迅速診断キットの有用性は今シーズンも高いと考えられた。昨年、2014-15年流行期に迅速診断キットでは陽性と判定されたが、ウイルスがMDCK細胞で分離されなかったH3N2例が多かったことを報告した。今回の2015-16年流行期のA型の主体はH1N1pdm09であったが、迅速診断キットでは陽性と判定されたが、ウイルスが分離されない症例が比較的多くみられた。診断のgold standardとしてPCR法を利用した遺伝子検出が今後は使用されるようになるかもしれない。
ワクチン接種前のHI抗体価が40倍以上の例がかなりみられたが、これはこれまでのワクチン接種が影響していると思われた。接種後にHI抗体価40倍以上の割合は増加しており、ワクチンの反応性は良かったと思われた。H1N1pdm09 およびBの感染者では、急性期のHI抗体価が多くの例で40倍未満であり、40倍以上での感染者は少なく、ワクチンが有効であった可能性が示唆された。
インフルエンザの流行状況とワクチン、抗インフルエンザ薬の有効性
日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長 河合直樹
2015-2016年シーズン(本シーズン)の流行はAH1N1pdm型(47.9%)とB型(47.7%)がほとんどで、前シーズン94.6%を占めたAH3N2(香港)型はわずか4.4%にとどまった。また流行期は例年よりもA型は遅く、B型はやや早かった。各亜型の年代別分布では、本シーズンは20代の患者が少なかったがこれはH1N1pdm型が2009-10年に10代で大流行したことと関係している可能性がある。
ワクチンの有効性に関する前向き試験で、インフルエンザ発生率は9歳以下、10代、30代および全年齢でいずれも非接種群よりも接種群で有意に低くワクチンは有効であった。特にA型(ほとんどがH1N1pdm)では有効性が高く、B型でも4価になって一定の有効性の向上がみられた。
抗インフルエンザ薬(抗イ薬)の解熱時間はA型では30時間前後、B型では30~40数時間程度と、特にA型は若干長く今シーズンA型の最高体温が高かったこととの関係が考えられたが、H275Y変異による耐性を示唆するような極端に解熱時間の長い症例はみられなかった。
65歳以上における肺炎球菌ワクチンの接種率はこの3シーズンで19.9%→28.2%→36.8%と毎年大幅に上昇し、公費負担による効果が考えられた。
結語:2015-2016年シーズンはAH1N1pdmとB型がほぼ半々で流行し、ワクチンや抗イ薬の一定の有効性も確認された。
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