第13回インフルエンザ夏季セミナー第2報

―第13回インフルエンザ夏季セミナー特別講演より―
平成27年7月19日(土)リーガロイヤルホテル東京にて、第13回インフルエンザ夏季セミナーを開催しました。
今回は、その第2報としてインフルエンザに関する分野で最先端の研究をされている先生方による、特別講演のサマリーをご紹介します。
(日臨内インフルエンザ研究特任理事 岩城紀男)

市中病院におけるインフルエンザの現況:細菌感染合併におけるマクロライド系薬の位置づけを含めて
倉敷中央病院呼吸器内科 主任部長 石田 直 先生
DSC_0406.jpg2009年に発生したA/H1N1pdm2009によるインフルエンザパンデミックは、わが国においては、早期受診・早期治療の医療体制が有効で、世界の中で最も被害が少なかった。その後のシーズンでは、A/H3N2、A/H1N1pdm09、B型が交じり合って流行を繰り返している。2015年1月より、日本呼吸器学会においてインフルエンザインターネットサ-ベイランスが開始となったが、当院では46例の成人入院患者(肺炎18例、脳症1例を含む)を登録した。うち3例は死亡例であった。

 抗インフルエンザ薬の投与については論議のあるところであるが、近年では海外のガイドラインにおいても、抗ノイラミニダーゼ阻害薬を早期に積極的に使用する方向に変化しつつある。

 インフルエンザ後の細菌性肺炎続発は、特に高齢者において重要な問題である。なかでも肺炎球菌性肺炎は、頻度においても重症化に関しても最も重要な原因菌である。肺炎球菌ワクチンの普及は重要である。

近年マクロライド系抗菌薬は、抗菌作用以外の新作用が注目を集めている。重症肺炎においてβ-ラクタム系薬剤と併用することにより、生命予後の改善が報告されている。しかしながら、インフルエンザにおいて抗ウイルス薬と併用の有効性はいまだ確立していない。

わが国の季節性インフルエンザと肺炎球菌感染症:サーベイランスの現状
国立感染症研究所感染症疫学センター センター長 大石 和徳 先生
DSC_0420.jpg2014年以降、WHOは新型インフルエンザのリスクアセスメントのための具体的な手法について検討している。ベースラインとなる季節性インフルエンザを対象に「パンデミックの深刻さ」の3つの柱を評価する方針について異論は無いが、各国で実施されているインフルエンザサーベイランス手法が異なることから、国際間での同一基準でのリスクアセスメントの比較は困難である。2015年時点では、参加国による各国の利用可能なサーベイランス手法を基本とした季節性インフルエンザのアセスメント方法の検討が進んでいる。世界各国のシーズン毎の季節性インフルエンザのアセスメント情報を蓄積することが、パンデミックインフルエンザ発生時の迅速なリスクアセスメントに有用となると考えられる。

 わが国にける2014/15シーズンの流行は例年より2週間ほど早い立ち上がりで、ピーク時期は1月中旬から下旬であった。インフルエンザウイルス分離・検出報告では、本シーズンは2015年3月までAH3亜型が流行の大部分を占めた。 今2014/15シーズンの流行株は前シーズンの流行株から抗原性が大きく変化していることが明らかとなった。インフルエンザ入院サーベイランスでは60歳以上の報告数が過去3シーズンでは最も増加した。全国21大都市を対象に行われている死亡の迅速把握では、東京都特別区をはじめとする複数の都市で、地域レベルでの超過死亡が観察された。

 2014年度までの調査で、小児における肺炎球菌コンジュゲートワクチン(PCV)の定期接種導入後に原因菌の非ワクチン血清型が増加し、小児のみならず成人のIPDにおける血清型置換が明らかになりつつある。2013-2014年度までに成人IPDの原因菌に対する23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPSV23)とPCV13のカバー率は66.5%, 46%まで低下した。PCV13の接種による65歳以上の成人のワクチン型の肺炎球菌性肺炎(菌血症の有無に関わらず)及び侵襲性感染症の予防効果が示された今後の成人IPD、市中肺炎の血清型分布の継続的な監視が必要であり、日本呼吸器学会ワクチン検討WG委員会及び日本感染症学会ワクチン委員会の合同委員会による「65歳以上の成人における肺炎球菌ワクチン接種の考え方」は3年以内に見直しをする。