高齢化と日臨内
日本臨床内科医会
副会長 望月紘一
平成22年の新年が明け、21世紀は早くも二度目の10年が始まることとなる。私が東京の住宅地域で診療所を開設して30年が経過した。開業当初は30歳台であった私も今や高齢者といわれる年齢になり、通院している患者さんたちも当然変化してきている。近くの大きな団地の平均的家族の家長の年齢層も、40~50歳台から70~80歳台へと変化した。社保本人・家族が2/3、国保1/3であった患者層も、社保1/3、国保1/3、残りの1/3は75歳以上の後期高齢者となった。毎月通院している高齢の方々も次第に足腰が弱まり、80歳も後半を過ぎると通院すること自体が体力的に困難となることが少なくなく、通えなくなった時にはどうすればよいか質問され、「その時は、私が定期的に往診して対応します」などと即答できなくて困惑する。高齢化社会が到来 したことはずいぶん前からいわれていたが、自分が高齢となり自院の患者さんも高齢となってはじめて強く実感される。通院患者への対応に手いっぱいの現状と、これから低下してゆくであろう自分の体力を考えてしまうが、今後、在宅医療を重視した診療体制への方向転換の必要性も感ずる。
さて一方で、日臨内の会員の年齢構成は如何であろうか。各県内科医会の集合体である日臨内では、全会員の年齢の詳細を把握することはむずかしいが、認定医制度、専門医制度に加入している会員のデータでは、70歳台は当然として、80歳台、90歳台の先生方も少なくなく、高齢会員が多いことが特徴である.若い会員の新規入会がなかなか進まない悩みはいつも問題となり、その対策は喫緊の課題であることはもちろんであるが、視点を変えて高齢会員が多い現状を踏まえた対策も必要である。
高齢の患者にとってみれば、高齢者の体調や心理が理解できる年齢であつて、なおかつ医学の進歩に取りされずに新しい医学知識を備えた医師からの診察を受けたいと思っていると考えられる。家庭環境の違い、加齢現象のあらわれ方、生活習慣の影などが個人個人で大きな差となることが高齢者の特徴であり、それを理解できるのは、その地で永年地域医療に従事した医師であろう。そのような経験豊富な高齢会員が多いことも、正に日臨内の大きな誇りの一つである。
創立25周年を迎える日臨内では、まず会員自身がみずからの健康を保持・増進していくために役立つ事業を展開し、そのうえで高齢化日本に貢献する医師となるために役立つ活動が求められる。そこで、日臨内では近い将来、会員の健康調査が予定され、また今後ますます重要となるであろう在宅医療について、その基本から検討する事業を計画中である。会員の先生がたのご協力をお願いしたい。
■目次
●巻頭言:政権交代実現 日本臨床内科医会副会長 余 昌英
○第23回日本臨床内科医学会アルバム
●第27回一般社団法人日本臨床内科医会総会のご案内 i
●第24回日本臨床内科医学会(石川県)のご案内(第1報:概要) ii
○コンベンションDVD発刊のお知らせ iv
○認定医及び専門医制度単位取得用郵便振込用紙
■目で見るページ■
甲状腺機能低下症(粘液水腫性顔貌) (日本臨床内科医会会誌編集委員,石川県) 洞庭 賢一 423
■日進月歩 Medical Topics■
高血圧治療の常識は常に進化する(循環器系領域) (神奈川県) 宮川 政昭 425
生理的ぺーシングに向けた心臓ペ-スメーカーの進歩(循環器系領域) (石川県) 洞庭 賢一 426
「レジかな?」まず疑うことから始めよ―レジオネラ肺炎(呼吸器系領域) (岩手県) 武内 健一 427
慢性骨髄性白血病はTK阻害薬で治癒可能か(血液系領域) (徳島県) 小阪 昌明 428
インスリン治療と発癌リスク論争(内分泌 代謝系領域) (宮城県) 鈴木 研一 429
CKDにおける高血圧治療(腎 電解質系領域) (奈良県) 山田 宏治 430
疼痛と不定愁訴の影で(アレルギー リウマチ系領域) (千葉県) 戸叶 嘉明 431
介護保険「みなし通所リハビリテーション(リハビリ 介護系領域) (北海道) 松本 修二 432
■総説■
内科医の漢方診療 (漢方三考塾) 髙山 宏世 433
■特集「インフルエンザ」■
●座談会:インフルエンザ―季節性インフルエンザから新型インフルエンザまで―
(日本臨床内科医会 学術部 感染症班) 445
■解説■
迅速診断キットについて (日臨内常任理事 インフルエンザ研究班担当/石川県) 岩城 紀男 456
病院における新型インフルエンザ対策 (学術部感染症班/広島県) 桑原 正雄 461
抗インフルエンザ薬について (日臨内インフルエンザ研究班 班長/岐阜県) 河合 直樹 466 インフルエンザに随伴する異常言動について
(日臨内インフルエンザ研究班副班長/神奈川県) 廣津 伸夫 470
■講演■
教育講演
見逃してはいけない糖尿病―劇症1型糖尿病 (大阪医科大学第一内科教授) 花房 俊昭 475
腎臓から高血圧診療を考える (埼玉医科大学腎臓内科教授) 鈴木 洋通 480
■投稿論文■
●臨床研究
血清クレアチニン値および尿中アルブミン値からみた2型糖尿病患者のeGFR病期
山田医院(奈良県) 山田 宏治 487 高血圧患者におけるシスタチンC測定の有用性―腎硬化症超音波所見との関連について―
柳澤診療所(東京都) 柳澤 孝嘉,他 492 軽度高コレステロール血症者に対する紅麹含有食品の臨床的有用性および安全性
大阪府内科医会 泉岡 利於,他 499
■シリーズ■
●他科に聞くシリーズ「内科医のためのPETの知識」 (北原医院/神奈川県) 北原 隆,他 504 ●シリーズ◆お知恵拝借コーナー
第33回 診療所高血圧 (諸星クリニック/神奈川県) 渡部 廣行 511
症例検討 (学術部循環器班/神奈川県) 宮川 政昭 512
■コーナー■
●医療 介護保険コーナー
介護保険要介護度認定方式の変遷について
社会保険部 医療 介護保険委員会(和歌山県) 田中 章慈 518 地域医療の主体は「民」,難局にどう立ち向かう?
社会保険部 医療 介護保険委員会(秋田県) 門脇 謙 521
●ITコーナ
インフルエンザのリアルタイムサーベイランスについて 庶務部 IT委員会(岐阜県) 河合 直樹 523
■コラム■
禁煙外来余談 (秋田県) 小泉 亮 526
在宅医療のひとつの現況 (福島県) 齋藤 紀 527
雑 記 (長崎県) 星子 浄水 528
●部会報告:第42回代議員会(第23会日本臨床内科医学会,平成21年10月10日) 529
●会誌読後評価(アンケート:第24巻第2号)集計結果 541
●日臨内ビデオシリーズのご紹介 543
●日本臨床内科医会会誌投稿規定 545
●編集後記 549 (認定医及び専門医制度単位取得企画の前号設問の正解は,編集後記(549頁)の下に掲載されています)
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鳩山政権発足1ヵ月が経過しました.おおむねその真剣さに,高い支持率をえて順調な滑り出しのようです.
このたびの選挙で大方の予測どおり,民主党の大勝利で60年ぶりの本格的な政権交代が行われました.
選挙大勝利の翌日21年9月1日の毎日新聞のコラムに神戸女学院の内田 樹 氏が面白い表現でこの政権交代を述べていました.「今回は政権交代という既にある着地点にめがけて投票した感じだ.言い換えればテレビのチャンネルを変えたようなもの.次のチャンネルで何をやっているのかわからないが,今までのチャンネルに出ている役者の芸風に飽きたから,替えただけのことである」.上手いことをいっているなあと感心しましたのでお借りしました.いろいろな理屈はつけられると思いますが,単純化して国民の投票行動を表現すればこんなところかもしれません.
野党であった時には好き放題のことをいっていられた民主党が,与党となりいろいろな政策を実施していく時に,果たしてどのように従来の主張を実現できるのか注目すべきところです.
特に後期医療保険制度の廃止はその後に何をもってきてこれに変えるのか,心ある人には大きな関心の的です.以下は「二木 立の医療経済,政策学関連ニューズレター(通巻61号)」より要旨を引用いたしました.
民主党の医療政策の中でも,医療費と医師数の大幅増加の数値目標が明示され,「OECD平均の人口当たり医師数を目指し,医師養成数を1.5倍にする」「総医療費対GDP比をOECD加盟国平均まで今後引き上げて行きます」とマニフェストに明記されました.
また診療報酬の公的病院への偏重もが鮮明にされています.「中医協の構成,運営等の改革」が懸念されるところです.民主党の最大支持母体である連合(日本労働組合総連合会)の医療政策が自治労の強い影響下にあり,その自治労の医療政策は,傘下に多くの自治体病院組合員を抱えるため,伝統的に公立病院偏重,開業医軽視だからです.たとえば連合の「制度,政策 要求と提言」には「診療所については定額式を原則とするとともに将来的には家庭医登録制度の採用と登録患者の数に応じた医療費支払い方式である人頭払い制度の導入も検討する」という,かってイギリスのNHSで採用されたが現在では修正されている,日本の医療の現実からはかけ離れた政策が堂々と掲げられています.
このような民主党の医療政策に対してよほどしっかりと日本医師会を中心に立ち向かわねばなりません.