2013年10月アーカイブ

第11回インフルエンザ夏季セミナーより

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平成25年7月20日(土)、リーガロイヤルホテル東京にて第11回インフルエンザ夏季セミナーが開催されました。このセミナーは日臨内インフルエンザ研究参加者のための研修会であり、また例年このセミナーで前年の日臨内インフルエンザ研究の成果が発表されます。
今回の各講演のサマリーを以下に記述いたします。(日臨内特任理事 岩城紀男)

1.インフルエンザの診断とワクチン接種によるHI抗体価の推移
  九州大学先端医療イノベーションセンター教授 池松秀之

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2012-13年流行期、ウイルス分離の検体総数は1,019件でした。インフルエンザ迅速診断キットの精度は、ウイルスの変化などの影響を受けますが、ウイルス分離あるいはPCRのどちらかでウイルスが検出された症例における迅速診断キットの感度は、99.8%で、キットでA型と判定された566例の陽性試験予測率は91.0%であり、タウンズ社などのキットの有用性は今シーズンも高いと考えられました。
2012-13年度ワクチン株はA/California/7/2009(H1N1)pdm09、A/Victoria/361/2010(H3N2)、 B/Wisconsin/01/2010(B)でした。ワクチン接種後のHI抗体価40倍以上の割合は、194例においてH1N1pdm09が85.1%、H3N2が95.4%でA型の両亜型とも良好な抗体価の上昇がみられましたが、有効率は高くなかったようです。Bの接種後HI抗体価40倍以上の割合は69.6%で、例年同様に高い割合ではありませんでした。

2.インフルエンザウイルスの感染期間に関して
  日本臨床内科医会インフルエンザ研究班副班長 廣津伸夫

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文科省は、インフルエンザの出席停止期間を学校保健安全法の施行規制で、「発症後5日」の出席停止を条件に加え、幼稚園児については、解熱後の停止期間も2日から3日に改めました。そこで、その妥当性検証するため、家庭内と学校内感染の疫学調査とウイルスの消失時間における調査を行いました。
ⅰ)家族内で乳幼児と学童が同世代に感染する割合は、21%と13%で、同世代への感染率は乳幼児の方が高くii)流行状況では、保育園で1)誰とも感染の影響を持たない単独罹患者21%、2)クラスにウイルスを持ち込んだ第1罹患者16%、3)先行の罹患者の感染初期に感染を受けた者62%、4)先行する罹患者の復帰後に感染を受けた者1%であり、小学校では1)30%、2)16%、3)48%、4)5%でした。iii)経時的なウイルス力価の検討から、薬剤投与開始からウイルス消失までの時間(中央値)は、乳幼児で4.1日、学童で2.9日及び薬剤投与開始から解熱までの時間はそれぞれ、1.7日、0.8日と差を認めましたが、解熱からウイルス消失までの時間には差を認めませんでした。
このことから、感染期間の判定は、解熱を基準にするのが妥当で、家族内で乳幼児に高い感染率がみられたものの、保育園で出席停止から復帰した児童からの感染は小学校より少なかったことより、出席停止期間を保育園児で長くする必要はないものと思われました。
さらに、薬剤別の薬剤投与開始からウイルス消失までの時間は、ラピアクタで2.2日、イナビルで3.2日、リレンザ で3.5日、タミフルで4.0日と有意差なく、薬剤投与開始から解熱までの時間はそれぞれ、0.8日、1.7日、1.1日、1.2日とラピアクタとイナビル間以外、有意差は認められなかったものの薬剤間に治療効果の違いがあることが示唆されました。発症からから解熱までの時間は治療開始の時間と薬剤に依存するため、早期の治療と薬剤の選択が出席停止期間を左右すると思われました。

3.ワクチン、抗インフルエンザ薬の有用性について
  日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長 河合直樹

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 2012-2013年シーズンは培養でAH3N2(香港型)が80%(平均年齢36.0歳)、B型が19.2%(同30.3歳)、H1N1pdmが0.8%(26.4歳)の混合流行で、成人~高齢者に多く、H3N2では60歳以上が19.8%を占めました。ワクチンは9歳以下の発症率が非接種群27.3%、接種群9.8%と有効で(p<0.001)、特にH3N2で高い有効性がみられました。
ノイラミニダーゼ(NA)阻害は平均の解熱時間(投薬開始から37.5℃未満に下がるまで)がA型では23.0時間(ペラミビル)~28.1時間(ザナミビル、ラニナミビル)と有効性が高いものの、B型は32.2~46.8時間とやや有効性が低いという結果でした。また各NA阻害薬投与後(±5日目)のウイルス残存率はH3N2で10~20%前後、B型で20~30%前後で、ウイルス残存率は特定の発熱パターンと密接な関係を示しました。
また今シーズンは高齢患者が多かったことから、1回完結型吸入薬ラニナミビルの高齢者における有用性を検討しましたが、高齢者でも大部分の症例で吸入可能であり、80歳以上でも有効率が高いことが確認されました。

お知らせ
今年8月に一般、医療スタッフ、実地医家向け等に(株)医薬ジャーナル社から「よくわかるインフルエンザのすべて」という単行本を発刊しました。最新のH7N9情報も含め、インフルエンザについてわかりやすく系統的に解説していますので是非、日常臨床にお役立てください(詳細はhttp://www.iyaku-j.com/ をご参照ください)。

4.「話題提供」呼吸器感染症と気道クリーニング
   東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学寄附講座 教授  山谷 睦雄

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COPDや気管支喘息は呼吸器ウイルス感染により増悪を来たすが、COPDの研究(Rohde G, et al. Thorax 2003)によると増悪の際の56%でウイルスを検出し、その種類はライノウイルス(36%)、A型インフルエンザウイルス (25%)、RSウイルス (22%)であった。クラリスロマイシン投与はこれらの難治性喘息およびCOPD増悪に対し予防効果がみられ、最近の報告(Albert RK, Connett J, Bailey WC, et al. Azithromycin for prevention of exacerbations of COPD. New Engl J Med 365: 689-698, 2011. )では、アジスロマイシンで増悪抑制、増悪頻度減少、最初の増悪までの期間延長、QOL改善およびウイルスに対する抑制効果がみられた。またインフルエンザ治療においてクラリスロマイシンを上乗せすると咳や鼻水に対し効果がみられる。
 クラリスロマイシンの増悪予防効果の機序として気道クリーニング作用が挙げられるが、ニュージーランドからの報告(Simpson JL, et al. Am J Respir Crit Care Med, 177: 148-155, 2008)によると難治性喘息におけるQOL改善、喀痰中のIL-8、メタロプロテイナーゼ、好中球数 好中球エラスターゼの減少作用がみられ、難治性喘息におけるマクロライドの追加投与が重要であります(クラリスロマイシン 500mg x 2 daily)。

5.「特別講演」パンデミックインフルエンザへの事前準備と緊急対応体制の再構築
  国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター センター長  田代 眞人 

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先ずH5N1型高病原性鳥インフルエンザについて述べると、同感染患者の病態では、重症肺炎と全身感染が特徴的で、呼吸器感染+ウイルス血症を来たし、サイトカインの"嵐"による多臓器不全であり、小児・若年成人を中心に、致死率は60%以上です。これが20%ぐらいまで低下するとパンデミックを起こす危険性を孕んでおり、このウイルスのHAタンパクの僅か数か所のアミノ酸変異で、ヒト-ヒト間の感染伝播性を獲得(ヒト型に変化)する可能性があり、鳥の間での伝播拡大が続いていて、インドネシア、中国でブタに不顕性感染がみられ、鳥型ウイルスがヒト型へ変身しつつあることに注目したい。
 またPandemic (H1N1)2009は幸いにも弱毒型で人々は助かったが、わが国では国家危機対応体制の欠陥と法的基盤に立つ健康危機管理体制の欠如が露呈したため、その反省から2013年4月に新型インフルエンザ等特別措置法が制定されました。
 2013年2月19日に上海市で最初の患者を確認したH7N9鳥インフルエンザウイルスのヒト感染では、その後3~4月をピークとして、揚子江河口域を中心に10の省、市に拡大し、確認患者数135名、死亡42名(致死率30%以上)、中高年層が大多数を占め、(年齢中央値59歳)、男性:女性=2.7:1、患者の76%が基礎疾患をもち、高齢者は重症化し(致死率40%)、大多数は重症肺炎、多臓器不全に陥いるが、少数の小児、若年者は軽症、北京の6歳男児が不顕性感染でありました。  
中国当局の正式発表(2013年7月まで)では、患者同士の接触歴無し、家族内感染・院内感染が疑われる例もある。継続的なヒト-ヒト間の感染伝播は確認されず、市場での家禽からの感染が主な感染経路で、約30%の患者には鳥との接触歴は無かった。8万羽の家禽の調査にもかかわらず、数ヵ所の市場で40羽の鳥(ニワトリおよびハト)でウイルス陽性のみ。養鶏場では検出されず、野生のハト1羽でウイルス陽性(ウイルス陽性の鳥は不顕性感染)、ブタでの感染は確認されず、5月下旬以後、新規患者の発生はなくなりました(終息宣言)。A(H7N9)鳥インフルエンザウイルスの性状は、3種類の鳥ウイルス由来の遺伝子再集合体であり、HAとNAはユーラシア系統の鳥ウイルス由来、6内部遺伝子は中国の鳥H9N2ウイルス由来で、鳥では不顕性感染、動物でも病原性は低いと予想され、ヒトに感染し、増殖し易く変化している。A(H7N9)ウイルスの性状は、マウス、フェレット、ブタ、サルなどの哺乳動物の呼吸器に感染が成立し、鳥型ウイルスよりも病原性は高まっている。
H5N1とは異なり、ウイルス血症や全身感染は起こさない。軽度のサイトカインストームを誘起する可能性があります。ヒト-ヒト間の効率の良い感染伝播は認められていないが、動物実験の結果からは、飛沫感染伝播が起こり得る。今後効率の良いヒト-ヒト間の感染伝播を起こすように変異する可能性があります。殆どのヒトは免疫を持たないので、パンデミックが起これば大きな流行が予想される。

新型インフルエンザ大流行対策の基本戦略
1.新型ウイルスの出現阻止
   鳥における鳥インフルエンザの監視と制圧
   ブタにおける感染伝播の監視、リスク評価
   ヒトへの感染防御(教育、宣伝、生活環境改善)
2.新型ウイルスの発生局所での早期封じ込め
   早期発見・早期報告(サーベイランス)
    ヒト感染例の監視、ウイルス検出と性状モニター
   早期封じ込め作戦(移動制限、抗ウイルス剤集中投与)
3.感染拡大の阻止・遅延と健康被害の最小化
   公衆衛生的介入(検疫、隔離、行動制限など)
   医学的対応 (ワクチン、抗ウイルス剤、医療提供)
4.社会機能、経済活動の維持
   社会機能維持に不可欠な職種
   事業継続計画(BCP)
5.パンデミック終息後の回復計画

今後もH9,H7,H2, H6亜型などの新型インフルエンザが出現する可能性が必ずあることを強調したい。

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